2010年3月15日月曜日

川本三郎 私の東京町歩き

1990 株式会社筑摩書房

著者は、主に東京の下町の、どこか懐かしい風景の中をひとり歩くのを楽しみにしている。
町歩きは、ただ無為に歩いているときがいちばん楽しい。
著者は、夕暮れ時になって、見知らぬ町の見知らぬ居酒屋でビールを飲んでいるき、寂しいのだが、しかし不思議と心が落ち着くのを感じる。
東京の古い下町を愛した大先輩である永井荷風は、やはり、町から町をさまよい歩いた。
東京は、関東大震災と東京大空襲で、すっかり焼き尽くされた。
さらに、経済の発展によって古いものは姿を消した。
それでも、よく見ると激しい変化のなかを、昔の風景がよみがえってくる。
本書が出版されてから、すでに二十年の歳月が経って、町の様子は、さらに変わった。
変わったなかに、変わらぬ面影を探すのも楽しみである。
私にとっても、町歩きは、自分もそのなかにいる時の流れと、時代の変化を感じるところがおもしろい。
もはやそこには帰ってはいけない遠い昔に見た懐かしい風景に出会うこともある。
他所者に過ぎない自分でも受け入れてくれそうな気がしてくる。
もっとも、そう見えるだけで、その町の古い住人は、たばこを平気でポイ捨てし、家のゴミや洗濯した水を道路に捨てているのかもしれない。
若い母親は、子供に近づく不審者を警察に通報しているかもしれない。
近頃、「防犯」という腕章をつけた人を見かけることが多い。
足早に通り過ぎて、住民の生活を邪魔しないのが都会の散歩者のマナーであろう。

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