2012年10月31日水曜日

副島隆彦 お金で騙される人、騙されない人


2010 株式会社幻冬舎

銀行や証券会社で株や投資信託などを買って大損した人がたくさんいる。
2008年の9月に、いわゆるリーマンショックがあったが、その前年の7月には、日経平均株価は1万8千円、円相場は1ドル110円であった。2012年の日経平均株価は9千円、円相場は1ドル80円である。
この5年間、株や投資信託、外貨預金をし続けてきた人は、かならず損を出していることになる。
そのなかで、お年寄りが、銀行、証券、保険会社などを信頼したのに、「騙された」という話があとをたたない。
こうした話は、心情的には「騙された」のかもしれないが、法的に「詐欺」とまで言えるかというと、そうではなく、著者によれば、誰も助けてくれない。
したがって、注意と警戒心を怠らず、すこしでも変だと思うことには近づかないようにすること、ようするに、自分で自分を守る以外に道はないことになる。
それでは、お年寄りが銀行や証券会社に「騙された」ときに、まったく手だてがないのかというと、実は、ある程度の救済策は用意されている。
民事訴訟では、裁判で最後まで徹底的に争うようなことはまれで、その前に、「調停」があり、裁判になっても「和解」という手段がある。
こうした裁判外の紛争解決手段では、当事者同士の話し合いで、お年寄りが、すべて損をかぶることにならないこともあるらしい。

「お金商品」で大損をした人が何百万人もいるのに被害の実情は不明である。
大部分の人は、他人に話しても同情されることはなく、「自己責任」だからとあきらめている。
このように、いまの銀行は、表にはでない金融商品がらみのトラブルをたくさん抱えている。
その結果、銀行の世間に対するアピールは、「振り込め詐欺」の防止に協力したなどという些末な事柄になってしまう。
「振り込め詐欺」も、年寄りがねらわれているのは深刻だが、金を持っている孤独な老人が多いから、こういう事件が起きるのである。
すべての年寄がカネをもっているわけではないが、このところ、医療や介護などをはじめとして、老人相手の仕事が繁盛している。
介護の仕事に携わる若い人も多いが、彼らが歳を取ったときには、おなじように介護を受けられるという保証はない。

2012年10月25日木曜日

丸谷才一 どこ吹く風


1997 株式会社講談社

東京の悪口

東京に住んでいる人は、東京が自慢で、東京が好きかというとかならずしもそうではない。
東京は、明治時代以降に全国各地から移り住んできた人が大部分である。
そのなかでも、とりわけ、大阪出身の人は、せっせと東京の悪口に励むらしい。
なかでも、ありふれているのが、東京の「うどん」の悪口である。あんなもの、とても食えたものではないという。
大阪出身者は、大阪にも愛着があり、東京も住みやすいという両方の感情を持っている。
そこで、故郷に義理をたてて、東京の悪口を言うそうである。「うどん」の味を悪く言うのは、そういうときには都合がいいのである。
そういえば、「関西うどん」というのはよく聞くが、「関西そば」とか「大阪そば」というのは聞いたことがない。
「そば」は、東日本の食べ物なのだろうか。
関西と関東では、言葉だけでなく、食べ物も含めて「文化」の違いがあるらしい。

2012年10月20日土曜日

三浦展 シンプル族の反乱


2009 KKベストセラーズ

最近の若い人の人気ブランドは、ユニクロと無印良品であるという。
世の中、不況のせいもないとはいえないが、「シンプル」が好まれている。
「反乱」とは、おおげさだが、三越や高島屋より、ユニクロや無印良品のほうが好きというのは、ある意味で反乱と言えないこともない。
消費者が生活防衛に走り、節約や「エコ」志向が高まり、「簡素化」が進んでいる。
こうしたなかで、ユニクロや無印良品のようなシンプルな衣食住を提案するブランドが売り上げを伸ばしている。
「シンプル族」は、単にお金がないから質素な倹約生活をしているのではなく、もっと大きな変化が底にある。
ユニクロや無印良品で売っているものがすべていいものだというわけではないが、エコ志向とシンプルライフ志向という価値観の大きな転換を、それらの企業は取り入れている。
こうした変化を理解しない企業は、これからは生き残れないだろうというのが著者の主張である。

ここ20年ほどのあいだに、ユニクロや無印良品だけでなく、ソフトバンクや楽天のような企業が大きくなった。
年寄りにはなじみのない「グリー」や「ディー・エヌ・エー」といった企業が業績を伸ばし、ディー・エヌ・エーは横浜のプロ野球球団を買収したので話題になった。
あまり変化がないようにも見える日本の企業だが、いつのまにか、変わるところは変わっている。

2012年10月13日土曜日

大瀧雅之 平成不況の本質


2011 株式会社岩波書店

巷では「失われた10年」とか「失われた20年」とか、まことしやかに語られている。
しかし、日本経済全体でみると、つい最近中国に抜かれるまでは、世界第2の経済大国の地位を保ち、経済規模もバブル経済当時よりも大きくなっている。
ただ、ここ10年ほど、失業率は上昇し雇用者所得は減少してきたので、それらの言葉が実感をもって感じられるのである。
ということは、大企業の正社員や公務員にとっては、それほど失ったものはなかったが、転職したり、失業したり、はじめから就職できず、派遣社員やアルバイトとして働かざるを得なかった人は、失ったものが多かったということになるのだろうか。
あるいは、職人、医療関係、ITなど特殊な技能の持ち主についても、それほど所得の落ち込みはなかったのだろうか。
所得が伸びず、むしろ減っているのになんとかやっていけたのは、物価が比較的低位に安定していたからである。
「デフレ」とか「インフレ」という言葉は、経済学では、「デフレ」とは物価が下がる傾向のことを言い、「インフレ」とは物価が上がる傾向のことを言う。
かならずしも、不況とデフレ、好況とインフレとがセットになっているわけではない。
「平成不況」は、デフレまたはディス・インフレであるために、閉塞感が漂っているが、なんとかなっているようにも見える。
最近、政治家が「デフレからの脱却」を声高に叫び、日銀に、いっそうの金融緩和を迫っている。
しかし、日銀がこれ以上の金融緩和をしても、景気が良くなるという保証はない。
一般に、人は理屈よりも感情によってより強く動かされる。
人を動かそうとする政治家は、熱のこもった言動によって、国民に強く訴えようとする。
国民が不満を持っているのであれば、景気を良くするという約束もしなければならない。しかし、政策的にどうしたら景気をよくできるのか解らない。
そこで、最後の頼りは日銀だ、日銀が悪者だとばかり、日銀に金融緩和の圧力をかけるのである。
もし、日銀がこれ以上金融緩和を続けていけば、インフレになる可能性はますます高くなる。
「インフレ・ターゲット」などという主張もあるが、所得が変わらないのに、物価だけ高くなったらどうなるのか。
政治家の理解が足りないのだろうか、それとも、政治家が誰かに操られているのかだろうか。

2012年10月9日火曜日