2012年3月31日土曜日

Q&A政治のしくみ50

2011 日本経済新聞社

近代の民主主義は、産業革命のころから、中産階級といわれる中間層が登場し、個人の自由や政治への参加を求めるようになったことと関係が深い。ある国の民主化がすすむ過程では、経済成長によって貧困が解消し、民主的な制度を支持する傾向が強い中間層が増えるという流れをたどることが多い。これを支えてきたのが、私有財産制のもとでの自由な経済活動を建て前とする資本主義である。
中間層の生活が苦しくなり、格差が広がると、政治情勢も不安定になりがちで、経済に閉息感が強まると、不満を持った大衆に迎合しようとするポピュリズムや過激主義が台頭するようになる。
日本でも、「失われた20年」といわれる経済状況は、首相が相次いで交代するなど政治の不安定と混乱の一因になった。経済的に停滞しているヨーロッパ諸国でも、極右政党などの影響力が増している。
世界第二の経済大国となった中国では、政治制度は共産党による一党支配だが、経済運営は市場経済という「北京コンセンサス」といわれる独特の発展モデルを採用している。
一党支配のもとで政治が腐敗し、格差が拡大しているので、各地でデモや暴動が起こっている。13億の人口をかかえる中国が民主化するのか、一党支配を維持したまま成長を続けるのかは、世界の関心事である。
中国は、たえず軍備を増強しており、周辺国を不安にさせている。日本とのあいだでも、尖閣諸島の領有権や東シナ海の海底資源をめぐる争いが外交問題になっている。
このため、日本は、強力なアメリカの軍事力に頼らざるを得ず、日米同盟を強化するのが歴代の政権の政策である。アメリカも日本を一方的に守るのではなく、相応の負担を求めており、日本はアメリカに軍事基地を提供している。基地の75パーセントは沖縄に集中しているが、沖縄での基地反対の声は大きく、普天間基地問題の責任を取って鳩山首相は辞任に追い込まれた。
さらに、アメリカは、日本がアメリカに積極的に協力するよう期待しているが、いわゆる集団的自衛権は憲法を解釈する限り、自衛権の範囲を超えている。

2012年3月28日水曜日

中西進 古代往還

2008 中央公論新社

四国の香川県、琴平町にある金刀比羅宮は、日本でもっとも有名なお宮のひとつである。この「こんぴら」という名前は、サンスクリット語(梵語)で、鰐のことである。ガンジス川にすむ鰐が神格化されて、仏教に取り入れられ、仏法を守る十二神将の仲間になった。それが金比羅大将である。
動物を神とするといえば、聖天とも歓喜天とも言われている仏教の護法神は、ヒンズー教のガネーシャが仏教に入ったもので、象が神格化されたものである。ガネーシャは、今でもインド商人の間でたいへん人気のある神様である。
動物といえば、東京の奥多摩にある御嶽神社や、埼玉県秩父にある三嶺神社の神様は、「大口真神」といって、狼が神様となっている。信者のあいだでは、狼は「おいぬさま」とも呼ばれている。
かって日本列島には、ニホンオオカミが生息していたが、公式には、明治時代に絶滅した。その後も、ニホンオオカミを見たという人は絶えないが、確認はされていない。
いまでも、まぼろしのニホンオオカミの存在を求めて探し回っている人がいるという。
各地で、鹿による被害がでているが、もしニホンオオカミが生息していれば、すこしは事態も変わっていたかもしれない。
ニホンオオカミは、驚くほど早くいなくなってしまったが、生き物を絶滅させてしまってから惜しむのは、人の常であるらしい。

2012年3月15日木曜日

成毛真 新世代ビジネス、知っておきたい60ぐらいの心得

2000 株式会社文芸春秋

1955年生まれ

著者は、2000年5月、マイクロソフト日本法人の社長を辞し、投資コンサルティング会社を設立した。
著者が自分で会社をはじめて気がついたことは、会社はレンタルでもできるということである。
事務所、電話、ファックス、コピー機、パソコン、プリンタはOAレンタルで揃い、受付や電話取次のスタッフは人材派遣会社に電話を入れればすむ。経理や法務の専門スタッフも、人材派遣会社で揃えることができるが、そういう業務を一括して請け負ってくれる会社もある。最近、会社の業務を代行する業務代行業者が急激に増えていて、その業績も伸びている。たとえば、オフィス用品デリバリーのアスクルは、オフィスで使う事務用品から家具、飲み物に至るまで何でも届けてくれ、企業の庶務部的な役割を担うまでに成長した。
会社に苦情があって電話をすると、実際に応対しているのはユーザーサポート専門の代行会社の社員であることが多い。こういう会社では、専門のスタッフを揃え、サポート内容やトラブル・クレームの類をデータ化して日々分析しているので、きめ細かなユーザーサポートが可能になっている。
情報システム分野のアウトソーシング事業として最近台頭してきたのが、ASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)やインターネット・データセンターである。こういうものを利用すれば、会社は独自の情報システムをつくることも、運用やメンテナンスもすることなく、利用料金を払って利用するだけになる。
これから会社をはじめるなら、極端な話、何も買わず誰も雇わずほとんど何一つ所有しないままで会社を動かすことも可能である。
そういうわけで、著者が、まだ会社ができていないベンチャー企業家へ出資するかどうかの基準は、アイデアと人物である。
事業アイデアが独創的で、しかもリアリティがあるかどうかを重視している。それさえ優れていれば、あとは営業力がなければ営業力のある人物を探してきてあげるし、お金がなければお金を出してあげることができる。
アイディアと人物さえ良ければ、お金だけでなく、ありとあらゆるものを提供するのが、本当のベンチャーキャピタルというものである。

2012年3月12日月曜日

藤井清孝 グローバル・マインド 超一流の思考原理

2009 ダイヤモンド社

1957年生まれ

著者は、灘高校から東京大学法学部へすすみ、三菱商事に内定したが、親の反対を押し切って、大前研一のマッキンゼーに入社した。ハーバード大学経営大学院でMBAを取得し、ゴールドマンサックスに入ったが、ウォールストリートの何も生産しないのに金融テクニックだけで莫大な報酬を得る体質に疑問を感じ、シリコンバレーで半導体製作会社の社長に転進した。その後も、いくつかの外資系企業の社長を渡り歩いているようである。
著者のように、自分で自分の進路をきめるというやり方は、うらやましいものがあり、日本で大企業のサラリーマンをしていたのでは著者のような経験はできないであろう。いっぽう、日本の社会は閉鎖的で誰もが我慢を強いられているので、嫉妬と怨恨のるつぼである。これを知っている人は決して自己主張などせず、「弱輩者ですが、よろしくご指導ください」などとへりくだって自分をわざと低く見せようとする。こういう人が、目上から引き立てられて出世するのが日本の社会というものである。
日本の大企業でも社員をアメリカの経営大学院に留学させているが、帰国後、日本の組織に失望して辞めていく人もいて、トップにまでいくのは日本にずっと留まっていた人が多いのではないだろうか。憶測ではあるが、日本人は今でも外国嫌いが多いようである。
ハーバード大学への留学生のうち、日本人は少なく、韓国人や中国人は非常に多いそうである。日本からの留学生が少ないのは、日本では、アメリカの大学への留学経験は、さほど評価されていないためかもしれない。
最近、東京大学は「国際標準」と称して、大学を9月入学に変えると言い出したそうである。新興国の優秀な若者が、日本の大学院にこなくなったという危機感があるからであろう。
しかし、問題は4月か9月かということではなく、日本の大学に留学して、日本語を修得しても、彼らが活躍できる場所が日本にないことにあるのだろう。もしそうならば、日本でしか使われていない日本語を学ぶのは時間の無駄である。
アメリカの大学で勉強すれば、英語だけで済み、世界中に活躍の場が広がっている。
新興国の若者が、日本よりアメリカを選ぶのは当然のように見える。