2012年2月27日月曜日

野口悠紀雄 幸田真音 日本人が知らない日本経済の大問題

2011 株式会社三笠書房

日本人は「世界経済の大変化」に気づいていない。
大部分の日本人は、「そのうち何とかなるだろう」と思っているが、「何とかなる」兆候は、いっこうに見えてこない。
1990年代には、新興国の工業化がすすみ、アメリカやイギリスでは脱工業化がすすんでいた。いっぽう、日本は製造業における過去の成功体験をいつまでも引きずり続け、自分達以外の世界が大きく変わっていることに気づこうとはしなかった。
新興国の工業化と国内市場の飽和に対する経済政策として、金融緩和と為替の円安政策がとられた。自動車産業では、為替レートが円安になったため、また、アジアの新興国で自動車を生産できたのが韓国だけであったため、不動産バブルに沸くアメリカで日本車がよく売れた。トヨタ自動車は空前の利益をあげ、下請け、孫請けを含めた地域全体が潤った。ところが、アメリカの金融危機を境にして流れが変わり、日本車は以前ほど売れなくなり、為替も円高になった。トヨタのような、商品の開発、生産、販売を自社と系列会社とで行う垂直統合的な生産は、うまくいっている時はいいが、流れが変わると系列会社の存在が逆に重荷になってくる。それに対して、パソコンなどでは、世界のいろいろな企業でつくられた部品を統合する水平分業的な生産方式がとられている。たとえば、アップルは世界中で作られた部品を組み合わせて新しいコンセプトの商品を作りだし、非常に高い利益率を達成している。
日本企業は、たえず努力をつみ重ね、労力とコストをかけながら、効率の悪いやり方をずっと続けている。
日本の自動車メーカーの、地域ぐるみ、日本ぐるみといったやり方は、過去においては成功したが、これからも続けていけるかどうかは別である。将来やってくるかもしれない電気自動車の時代には、自動車の作り方も変わって今のようなやり方は維持できなくなるであろう。しかし、日本の組織では、通常、過去の成功者がトップになるので、過去に成功したやり方から抜けだすことはなかなか困難である。

2012年2月19日日曜日

布施克彦 負け組が勝つ時代

2010年 日本経済出版社

1947年生まれ

一時、「勝ち組」とか「負け組」とかという言葉がはやったが、今はあまり聞かれなくなった。
これは、それ自体が意味する「格差社会」がなくなったということではなく、「勝ち組」がなりをひそめているのではなかろうか。
日本では、昔から「出る杭は打たれる」とか「キジも鳴かずば撃たれまい」といわれるように、他人とは違う目立った行動をとると、そのよし悪しにかかわらず人々の反感を買いやすい。日本人は集団主義を旨として、組織の規律を重んじながら行動してきたので、圧倒的な力を持ったリーダーは生まれにくく、組織のトップになる人は、通常、組織内勢力の妥協や力のバランスの産物として誕生する。
「判官びいき」の風潮が社会を色濃く覆っており、圧倒的な勝者は生まれにくい。強者ぶり、勝者ぶりもほどほどにしておかないと、社会の反感や妬みを誘うことになる。ほどほどの強者や勝者は、人一倍身の処しかたに注意を払わないと、かならず足元をすくわれる。
大相撲の大関魁皇は幕内最多勝という偉業をなしとげたが、もし横綱になっていたら、もっと早い時期に引退に追い込まれ、この記録は達成できなかったであろう。幕内最多勝という偉業は、出世競争の頂点にはたたず、けっして華々しくなかったために達成できたのである。
サラリーマンの場合は、出世できた人が勝者で、出世できなかった人が敗者である。これは、当然のことのようだが、今のように組織自体が強固でなくなると、どちらにしてもあまり意味がない。ましてや、定年退職したあとは、いずれにせよ会社からは忘れられた存在になる。
会社をはなれてしまえば、勝者も敗者もない。
そういうこととは別の道をめざすのが賢い生き方というものである。

2012年2月17日金曜日

夏野剛 スマートフォン

2011 株式会社アスキ―・メディアワークス

携帯電話のサービスは、本格的に始まってから約20年に過ぎないが、2011年には、人口普及率は9割を超えると言われるほど瞬く間に普及した。その間、日本の携帯電話には、世界最先端の技術、機能が搭載されるようになった。ただ、進化した「ケータイ」の技術や規格を海外に広めることはできず、日本独特のものになってしまった。そのため、日本の高機能携帯端末は、「ガラパゴス・ケータイ」、略して「ガラケー」と呼ばれている。
そこへ、2008年にiPhone、2009年にはAndroid端末が登場し、スマートフォンがブームとなった。2011年にはスマートフォンの出荷台数が従来の携帯電話と並び、今後も拡大傾向が続くと予想されている。
それでは、スマートフォンは従来の携帯とどこが違うのかといえば、じつはそれほど厳密な違いはない。日本のガラケーの機能は、高いのでスマートフォンではできないことでもできることがある。
ただ、スマートフォンでは、ケータイより広い画面でインターネットのサイトをそのまま見ることができ、パソコンで使っているメールアドレスがそのまま使えるので、パソコンのように使うこともできる。
また、AndroidなどのOSの仕様が公開されていて、さまざまな会社がスマートフォン向けのアプリケーションを開発している。
ユーザーはそれらのアプリケーションを自分の端末に追加し、自分好みに端末をカスタマイズすることができる。
アプリ提供サイトには、App Sore、Androidマーケットなどがあり、多彩で便利なアプリが提供されている。
現在、スマートフォンはブームとなっているが、必要というわけではないのに知らないと取り残されるような気がする心理もブームを後押ししているのではないだろうか。スマートフォンを使用すると、パケット通信をしないわけにはいかないので、電話だけ使おうとする人には従来の携帯電話のほうが電話料金は安く、そのほうが向いているようである。

2012年2月15日水曜日

伊藤元重 時代の”先”を読む経済学

2011 株式会社PHP研究所

「為替」の今後を読むためのポイント
2011年の円ドルレートは80円近辺の水準にある。これは、過去もっとも円高であった1995年に匹敵する水準である。
だから世間では、「円高で大変だ」と騒いでいる。しかし、1995年から2011年の間に、アメリカの物価水準は40%上昇しているのに、日本の物価はほとんど変化していない。すなわち、アメリカドルの減価を考慮した実質レートでみると、ピークであった1995年にくらべればまだ「円安」である。
そうかといって、これから先も円高が続くのかどうかはわからない。国力も弱り、貿易収支も赤字になった日本を考えれば、中長期的なトレンドでみるかぎり、円安方向への動きが想定される。市場が見ているのは、たかだか半年程度先までで、閉塞感に満ちている日本だが、当面大きく崩れることはない。だから、当面は円買いで、多くの投資家がその流れに乗っているというだけである。

財政支える国債のバブル
日本の政府債務は増える一方なのに、その債務証書である国債の価格は史上最高値(国債利回りは史上最低水準)である。
もし国債価格が暴落したらどうなるだろうか。そうした不安を感じている人は多く、国債バブルを問題視する人も多い。
国債のバブルは、国債の市場価格の異常な高さ、あるいは国債金利の異常な低さにあらわれている。利回りの低い国債を生命保険会社や銀行は積極的に購入している。彼らがなぜ国債を購入するのかといえば、巨額の預金がたまっているにもかかわらず、他に安全な運用先がないからである。近い将来インフレになったり金利が急騰したりするリスクもなさそうなので、彼らの行動は、合理的である。しかし、政府の財政は赤字続きで、政府債務はいくらでも増え続けることはできない。このままの状況を続けていけば、いずれバブルは破裂すると考えるのが「常識」というものである。ということは、円安、インフレ、金利高がいつかはやってくるということである。

2012年2月10日金曜日

2012年2月9日木曜日

瀬戸内寂聴 奇縁まんだら 続の二

2010 日本経済新聞出版社

田中角栄
著者が田中角栄とテレビで対談をしてから半年ほど後、東海道新幹線で、ひとりの紳士がやってきて、「前の箱に田中角栄が乗っております。先生をお見かけしたので、御挨拶しろといわれまして」と告げた。著者は、「それはどうもご丁寧に、どうかよろしくお伝えください」とお辞儀をしたが、後で、あれは著者に挨拶に来いということではなかったかと気がついたが、それっきりになってしまった。

美空ひばり
著者が対談のため訪れた「ひばり御殿」は、御殿とよばれるほど豪華ではなかった。
玄関に入ると廊下から応接間まで一面に虎の皮が敷きつめられていた。
応接間には孔雀の剥製が長い尾をひきずっていた。
壁一面に戸棚があり、全国の土産物でびっしりつまっていた。
そこにも、ひばりの剥製がまじっていた。
著者は、「虎の皮も孔雀も始末しなさい。こんな動物の死骸に囲まれているから、病気になるのよ。それに品が悪いわ」とたしなめたが、ひばりはにこにこして言った。
「みんなファンの贈り物なんです。それに、服も帽子も、だから何ひとつ捨てられない。」
著者は、もうそれ以上、何も言えなくなってしまった。

2012年2月6日月曜日

長橋賢吾 ネット企業の新技術と戦略がよ~くわかる本

2011 株式会社秀和システム

ネット企業のなかでも、もっとも影響力があるのがGoogleであるが、Googleをささえるビジネスモデルはフリー(タダ)である。
では、タダからどうやって収益を上げるのかといえば、ユーザーがGoogleを使えば使うほど、別のところから広告料収入が入る。
広告料が、Googleの主な収益源になっている。これは、テレビの民放番組と同じである。
そのほかにも、ネット企業では、フリーを活用したビジネスモデルとして、「お試し期間」だけ無料で利用できるとか、ある程度までの利用については無料だが、一定程度以上利用すると有料になるとか、まったくタダのことはあまりない。
ネット利用の拡大にともない、EC(電子商取引)が急拡大している。ECの3大メジャーサイトが、Amazon.com、楽天、Yahoo!である。
ユーザーの数が膨大になると、そのネットワークからデータマイニングによって傾向を知ることにより、マーケティングに利用することができる。ユーザーのうわさや口コミから収益を上げることもできるが、ときには、良いうわさも悪いうわさもウイルスのように広がることがある。
さいきん、毎日のように話題になっているのが、スマートフォンである。スマートフォン市場のプレイヤーは4つに分類できる。1)通信キャリア、2)端末メーカー、3)プラットフォーム、4)コンテンツプロバイダーである。通信キャリアは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが大手である。端末メーカーは、シャープ、ソニーエリクソン、サムソンなどである。プラットフォームとは、OSおよびアプリ実行環境を提供するもっとも重要なポジションにあり、iPhone、Androidが代表格で、Windowsなどがそれに次ぐ位置にある。コンテンツプロバイダーは、スマートフォン上でアプリという形式でコンテンツを提供する。ゲーム、動画、電子書籍、facebookなどのSNSがこれに該当する。
今後を予測するとき、もっとも活発なのが、ソーシャル・ネットワークの分野である。ネットといっても、つきつめれば人と人との関係なので、「ソーシャル」という言葉が使われるかどうかにかかわらず、その構造は基本的なものであるが、ネットによってより容易になったと言うことができる。
Googleの戦略のなかでは、同社が提供するブラウザで、Chromeが注目される。このブラウザの性能が向上すれば、ユーザーは、ネットを利用するとき、ブラウザだけを立ち上げれば、あとはすべてクラウド上のサーバーにデータはすべて保管されるので、ブラウザだけですべて事足りてしまう。パソコンは、ネット端末として使われるのでWindowsであろうがMacであろうが関係ないことになる。