2009年6月28日日曜日

諸井薫 あるリタイアメント

1994 株式会社作品社

著者は1931~2001

「男」は去年の春61歳で会社を辞めた。男は出版社の社長であったが、一昨年に胃の3分の2を取った。だから、物書きとの2足のわらじを履き続けているのにもこのさいけりをつけて、自分から退任したのである。物書きの仕事に専念するため、新しい事務所を都心に借りることにした。半年もすぎ、ようやく新しい生活にも馴れた。文筆の仕事も見通しがつきなんとかマイペースの生活を手に入れることができたような気がしている。その後、随筆のような文章を新聞や雑誌に連載するようになった。

「男」と著者とはかなりの部分重なるであろうから、本書の話もそのうちのいくつかであろう。社長を引退して文筆ひとすじになって、かえって文章に緊張感のようなものが無くなるということはないのだろうか。リタイアすると、それまであった他人との接触が少なくなり、精神的ストレスは減る。ただ、小説家などの文筆業の場合、刺激が少なくなることは良いことばかりではなさそうだ。入れ歯や病気の話題も自然に出てくるようになる。

60すぎの生き方もさまざまである。リタイアする人生もあれば、いくつかの大企業の社長や役員を渡り歩く元高級官僚もいる。もちろん政治家は現役バリバリである。一生懸命生きてきた人生が充実してくるには、そのくらいの年月がかかるのかもしれない。であるから、臨機応変に対応していくしかない。

歳取ったと思えばそのとおり、若いといえばそのとおりである。

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