2012年2月9日木曜日

瀬戸内寂聴 奇縁まんだら 続の二

2010 日本経済新聞出版社

田中角栄
著者が田中角栄とテレビで対談をしてから半年ほど後、東海道新幹線で、ひとりの紳士がやってきて、「前の箱に田中角栄が乗っております。先生をお見かけしたので、御挨拶しろといわれまして」と告げた。著者は、「それはどうもご丁寧に、どうかよろしくお伝えください」とお辞儀をしたが、後で、あれは著者に挨拶に来いということではなかったかと気がついたが、それっきりになってしまった。

美空ひばり
著者が対談のため訪れた「ひばり御殿」は、御殿とよばれるほど豪華ではなかった。
玄関に入ると廊下から応接間まで一面に虎の皮が敷きつめられていた。
応接間には孔雀の剥製が長い尾をひきずっていた。
壁一面に戸棚があり、全国の土産物でびっしりつまっていた。
そこにも、ひばりの剥製がまじっていた。
著者は、「虎の皮も孔雀も始末しなさい。こんな動物の死骸に囲まれているから、病気になるのよ。それに品が悪いわ」とたしなめたが、ひばりはにこにこして言った。
「みんなファンの贈り物なんです。それに、服も帽子も、だから何ひとつ捨てられない。」
著者は、もうそれ以上、何も言えなくなってしまった。

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