2010年4月16日金曜日

田坂広志 営業力

「顧客の心」に処する技術と心得

2004 ダイヤモンド社

1951年生まれ

「営業力」というものを、どのように身につけ、磨いていけばよいのだろうか。
まず、営業力とは、「商品やサービスを売り込む力」のことではなく「人間と組織を売り込む力」である。
「営業力」の原点は、商品もサービスも無いところから始まる。
たとえば、会社を創って、商品を開発し、初めて商品が売れたとする。
そのとき、何の実績もない会社や商品が売れたのではなく、売れたのは「人間」である。営業の原点は、商品もサービスも無いところから、まず、人間を売り込むことによって始まる。
「自分自身」が、最高の商品であると知ることによって、プロフェッショナルは、「人間を磨く」という道を歩み始める。

つぎに、顧客に人間と組織を売り込むのが「商談」である。
ここでも、自分中心の発想で「売り込む」のではなく「買っていただく」という顧客中心の心構えでのぞむことが必要である。
「売り込む」とは、顧客の「信頼を得る」ことであり、「この人間なら任せられる」「この組織なら大丈夫だ」と感じていただくということである。
商談において、「顧客中心」のスタイルを貫くとは、笑顔の対応や礼儀作法というより、顧客の「無言の声」に耳を傾けることである。
顧客の無言の声に耳を傾けることによって、顧客の疑問を解き、不安を和らげ、要求に応え、希望をかなえる場が「商談」である。

さいごに、「商談」が終わり、顧客と別れるとき、「何か」が伝わってくる。その瞬間、ふっと感じたことが大切である。
多くの場合、顧客は、商談においては、本心を語らないし、本音を出さない。
顧客は、不満や不快感を、心の奥に抑えこんでいる。
しかし、最後の一瞬に、なぜか寂しいものが伝わってくる商談がある。いっぽうで、温かいものが伝わってくる商談がある。
この「商談の後味」とでも呼ぶべきものを感じ取ることが大切である。

「営業力」とは、商談という場において、「顧客の心」を細やかに感じ取り、「顧客の心」に速やかに対処する力である。
営業のプロフェッショナルとして山の頂を目指そうとするならば、顧客に対して、真摯に、誠実に接することこそが、ただ一つの歩みである。
ひとりの「顧客」との出会い。それは「縁」とでも呼ぶべき不思議な巡り会いである。
この顧客との、「このご縁を大切にしたい」という願いが、「営業力」と呼ばれる力の根本にあるべきである。

営業のプロフェッショナルとしての原点は人との「出会い」を大切にすることにあるという著者の話には説得力がある。
それでも、この話は、自分が売り込もうとする商品やサービスが優れたものであることが、前提になっている。
自分ではそれぼどいいとも思っていないものを売らざるを得ないとき、どうしたらいいのかまでは書かれていない。

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