2010年4月2日金曜日

松田道弘 マジック大全

2003 株式会社岩波書店

1936年生まれ

「マジックとは、トリックという騙しのテクニックを使ってありえない世界をつくりだし、観客を愉しませることを目的としたエンターテインメントです。奇術師はアイディアの練金術師といってもよく、不思議な発想で不可能を可能に見せる創意工夫に異様ともいえるエネルギーを注ぎ込んできました。」(扉より)

著者によると、アイディアの錬金術師ともいうべき奇術師は魔法のレシピをもっていて、最小の手段で最高の効果を効率よく手に入れるすべを知っている。

奇術とか手品は、観客をおどろかせ面白がらせると同時に、「だまされた」という不快感を起こさせかねないというあやうい両面を持っている。そのため、奇術師は、人に不快感を持たせてはならない。人は感じの悪い奇術師にだまされるのを極端にきらう。そのいっぽうでは「人は紳士にだまされるのを喜ぶ」。

奇術においては、トリックのアイデアと、それを生かすための演出上の工夫が大切である。

奇術をするにも、心構えがあり、一般的な原則には、次のようなものがある。
奇術のタネをあかさないこと。同じ奇術を、同じ場所で同じ観客を相手にくりかえし演じないこと。あらかじめ演技の内容を説明しないこと。十分に練習すること。客に挑戦しないこと。追われてもいないのに逃げないこと。いきあたりばったりに奇術をやらないこと。奇術をやりすぎないこと。

この中でも、いちばん重要なのは、絶対にタネあかしをしないことである。
その理由は、タネあかしをして客が喜ぶことは決してないからである。
「奇術の基本原理は非常に単純な原理でできあがっているので、タネあかしを聞いた客は身体中の力が抜けていくような失望感を味わいます。
魔法を演じていた奇術師のオーラは消えてしまい、あとには自分のインチキを告白したみじめったらしい人物がのこるだけだからです。」(p49)

奇術の醍醐味は、客の目の前で演じることにあり、ステージで観客のどぎもを抜いて、劇場全体がどよめくとき、奇術師の喜びは頂点に達する。

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