2009年8月20日木曜日

吉永良正ほか アキレスとカメ

―パラドックスの考察
2008 株式会社講談社


1953年生まれ サイエンスライター

「アキレスとカメ」の話は、2500年前、古代ギリシアの哲学者ゼノンが言ったと伝えられている。足の速いアキレスが、足の遅いカメに追いつけないという話である。
アリストテレスの「自然学」では、つぎのように書かれている。
「走ることの最も遅いものですら最も速いものによって決して追い着かれないであろう。なぜなら、追うものは、追い着く以前に、逃げるものが走りはじめた点に着かなければならず、したがって、より遅いものは常にいくらかずつ先んじていなければならないからである」(p20)
この話は、数学では無限とか連続とかの概念に到達しなければならないほど奥が深いという。
ここで、この話を聞いた時、いわゆる文系の人と理系の人とでは反応がまるで違うと著者は言う。典型的な文系の人の反応は、「現実的にありえない」、「なんだ、こんなもの」といったところである。「ぐちゃぐちゃこんなもの考えているのか」とあきれて、しまいには怒り出しかねない。
古代ギリシアでは、哲学や数学が盛んであったことが知られている。もっともその頃は今のように両者は分かれていなかったのだが、そのような議論をする人たちを哲学者というならば、ギリシアの哲学者は、おおかた、ろくな死に方をしていないらしい。ピタゴラスは教団に反発する暴徒たちによって焼き殺された。この話の主であるゼノンは、エレアの僭主に反抗したために拷問にあい、処刑されたという。
一般人にとってわけのわからないことを考えている人は、今でもそうだが、反発を受け、攻撃されやすいらしい。
それでも世間の論理ではなく、自分が見出した普遍の論理に従うのが真の哲学者や数学者の態度である。
「アキレスとカメ」のような問題を論理的にまじめに考えた人たちがいたおかげで、今日の数学の発展もあるとのことである。

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