2009年8月3日月曜日

岩田規久男 金融危機の経済学

2009.2 東洋経済新報社

著者は1942年生まれ 現在学習院大学教授

サブプライム・ローン問題の本質および、なぜそれが世界金融危機を引き起こしたのか。世界的な金融危機になったのはアメリカの政策のどこが問題があったのか、そして、この経験を生かして、今後どのような金融危機防止政策をとるべきか検討している。

今回の危機は投資銀行や保険会社のようなFRBの監督下にない大型金融機関の破綻がきっかけとなっている点に特徴がある。投資銀行やヘッジファンドなどの預金を取り扱わない金融機関が急成長していたが、これらは信用不安が起きるとたちまち資金調達難に陥ってしまう。また債権を証券化した金融商品を大量に取り扱っていた。
これまでのような銀行中心の金融安定化・危機対策には大きな限界があった。
金融システム全体のリスクを軽減するため、金融システム全体を統合的に監視できる機関が必要であるという。

「第6章 2008年世界金融危機の教訓は何か」のうち、銀行の自己資本比率規制と有価証券の時価評価の問題についてとりあげたい。

現在の金融安定化の主要な手段である銀行だけを対象とする自己資本比率規制にも問題がある。銀行には自己資本規制が課せられているのに投資銀行やヘッジファンドのような非銀行金融機関には課せられていない。自己資本規制が課せられていないと、目一杯借り入れて、投資収益率を高めようとする。つまり、できるだけレバレッジ比率を高めようとする。レバレッジ比率の高い投資銀行やヘッジファンドは金融危機に対して、きわめて脆弱になっている。

バブルが崩壊すると、銀行が保有している株式などの有価証券の価格が低下し、評価損の一部は自己資本を減らす。銀行は自己資本比率を維持するため、貸出や証券投資を抑制しなければならなくなる。その結果、金融危機はさらに深まり、景気が悪化する。投資銀行も借金を大幅に減らしてレバレッジ比率を低下させなければならず資産価格の暴落と景気の縮小をますます促進する。

金融危機においては、以上のような有価証券の時価会計について問題点があり、金融機関等から「投げ売り価格で時価評価するのはおかしい」という時価会計の一時凍結が要望された。日本においても、金融庁が2008年11月、銀行の時価評価の一時緩和の特例措置を発表した。(金融庁「銀行等の自己資本比率規制の一部弾力化について」)これにより、国内基準の銀行については2012年3月決算までの間、株式・社債等の評価損を自己資本に反映しなくてよいことになった。言いかえれば、自己資本を減らさずにすむことになった。

時価評価の問題は、現在検討中であり、結論は出ていない。

0 件のコメント:

コメントを投稿