2012年7月24日火曜日

郷原信郎 思考停止社会


2009 株式会社講談社

形式的な「法令遵守」と、上から命令していくだけの誤った「コンプライアンス」ばかり続けていくと、日本の社会は壊れてしまいかねない。
ほんとうのコンプライアンスとは、たんなる「法令遵守」だけではなく社会的要請に応えることをめざすべきである。
「法令遵守」が徹底された今の世の中では、何か問題が表面化すると、何が起こったのかとか、その背景・原因などより、法令に違反したかどうかだけが問題にされ、行為を行ったとされる者は、マスコミや世論から、問答無用の厳しい非難が浴びせられる。「法令遵守」は、黄門さまの印籠と同じように絶対的な権威となり、この印籠を向けられたものは、その場にひれ伏し悔い改めるよりほかはない。
何が問題なのかということを考えようともせず、「法令遵守」のみをかかげる日本の社会は、思考停止に陥っている。
物事が単純化され、本質が見失われ、一面的な評価しかされないことにより、日本の社会全体の「パワー」は確実に低下している。
「印籠」によって人々を思考停止に陥らせるのに大きな役割をはたしているのがマスメディアである。
マスメディア報道によって「法令違反」「偽装」「隠蔽」「改ざん」などのレッテルが貼られ、徹底的に叩かれると、当事者は一切の反論ができず、その場にひれ伏すような状態にされてしまう。
こうして犠牲になったものには、不二家、村上ファンド、社会保険庁などの名前が浮かんでくる。
これらの事件も、個別に検証すると、法令違反があったのかも被害者がいたのかも疑わしいものが多い。
度が過ぎたバッシングは、社会全体の活力を低下させ、日本の社会や経済に悪い影響を与えている。
日本の社会が、「遵守」による思考停止から脱却し、パワーを取り戻すためには、「印籠」を示されたものが、ただひれ伏すのではなく、「印籠」が何を意味しているのか、正面から向き合って問いなおす態度が必要である。

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