2012年4月24日火曜日

世古孜 ニホンオオカミを追う

1988 東京書籍株式会社

かって本州、四国、九州に分布したニホンオオカミは、1905年に奈良県で捕獲されたものを最後に絶滅したとされている。
なぜ絶滅したのかはナゾであるが、著者は病気の流行によるものではないと考えている。なぜならば、伝染病ならば、犬も感染しているはずだからである。もっとも考えられるのは、個体数が減少して、種族を維持することができなくなったことであろう。
著者は、オオカミは絶滅したものの、オオカミとイヌとの混血のイヌがいると考えた。紀州犬という猟犬にはオオカミの血が混じっているという。私は、遺伝のことはよくわからないが、隔世遺伝とか先祖帰りという言葉は聞くことがある。オオカミがイヌの先祖であれば、オオカミの資質をもった仔犬が生まれることがある。こういうイヌを交配させることによってオオカミを復活させようというのが、著者の試みであったが、志を遂げることはできなかったようである。
将来、遺伝子工学と呼ばれる技術が進歩すれば、もしかしたら、ニホンオオカミを復活させることもできるようになるかもしれない。
著者の故郷である伊勢や熊野には、平家の落人部落と言われている場所がいくつかある。そこには平家の末裔たちが暮らしているといい、著者は、若い頃、そのような平家部落で、はっとするような平安風美人を見たことがあるそうである。このように、人間でさえ何代も前の資質があらわれるのであれば、つい最近絶滅したとされているオオカミの資質がイヌに受け継がれていないわけはない。
オオカミを追い求めることにとりつかれてしまったのは著者だけではないが、そこに共通するのは、オオカミは犬よりも優れた生き物であるという感覚である。人間の召使いになってしまった犬より、人間に媚びを売らないオオカミに惹かれるのもまた自然な感情であろう。

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