2010年8月15日日曜日

島田裕巳 金融恐慌とユダヤ・キリスト教

2009 文春新書

1953年生まれ

1980年代の終わりに東西の冷戦構造が崩れてから、グローバル化が進展し、従来の国民国家の枠組が、ゆるくなっている。
そのため、政治問題より経済問題のほうが、注目されるようになった。
いっぽうでは、政治から宗教へのシフトが起こっている。世界各地で、宗教的原理主義運動が台頭し、過激派によるテロも続発した。
政治に代わって、経済や宗教が重要性を増して、注目を集めるようになってきた。

著者は、宗教学者であるが、本書では、宗教と経済との隠れた関係を明らかにしている。
西欧の経済のあり方や、それを分析する経済学には、ユダヤ・キリスト教が大きな影響を与えている。
かって、マックス・ウェーバーは、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を著わし、宗教が資本主義の発展に深く関わっていることを論じた。
アダム・スミスの「国富論」で有名な「神の見えざる手」という言葉にも、キリスト教の深い影響を見ることができる。

アメリカ合衆国では、国民の8割が、キリスト教徒である。したがって、国民の考え方にも、キリスト教の影響が大きい。
「旧約聖書」は、ユダヤ教とキリスト教の共通の聖典であるが、その世界では、神の人間にたいする怒りによって、この世の終わりが訪れるという終末論が展開されている。ほとんどの人間は死んでしまうが、選ばれた特別な人間だけが生き残るというのも、その特徴である。2001年に同時多発テロが起こったときにも、今回の100年に一度と言われる金融危機においても、多くのアメリカ国民が、旧約聖書に書かれているような終末論を思い浮かべた。

ユダヤ教徒は、人口では、ごく少数だが、国民の上層部ではかなり影響力がある。
ゴールドマン・サックスの創始者もユダヤ人であり、金融資本への影響力が大きいと言われている。
また、ハリウッドで映画を作り始めたのもロシアから亡命してきたユダヤ人が中心になった。娯楽映画の底に流れている考え方にも、旧約聖書の影響が見られるという。
そういえば、他の人間は皆、滅んでしまうが、自分だけは助かるという「ノアの箱舟」のような話は、日本ではあまり聞かない。

宗教学は、人間の目に見えない宗教活動を研究しているが、宗教と経済活動とは、深くつながっているらしい。

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