2009年10月23日金曜日

中野剛史 恐慌の黙示録

資本主義は生き残ることができるのか

2009.4 東洋経済新報社

1971年生まれ

ヴィジョンとは、世界観や思想のことであるが、人々は、ある種のヴィジョンあるいは思想にもとづいて世界を認識し行動する。経済システムというものも例外ではなく、その根底に、何らかの世界観や思想があると著者は言う。
2008年9月に勃発した金融危機以来、「金融資本主義が破綻した」と言われているが、その意味するところは、経済システムが壊滅したと同時に、それを支える思想あるいはヴィジョンが崩壊したということである。
日本については、「これまでのヴィジョンに対する根本的で内発的な反省もないまま、模範としてきた経済モデルを見失った日本は、突然訪れた世界的危機の中で、ただ漂流するばかりとなっている。」(p10)という。

本書では、そのヴィジョンをめぐって、過去の経済思想家の説を、いろいろ考察している。
対象となっている理論家は、ミンスキー、ヴェブレン、ヒルファーディング、ケインズ、シュンペーターの五人である。
「この資本主義の預言者とも言うべき五人が書き残した『恐慌の黙示録』を解読し、その中に秘められた思想をつなぎ合わせるようにして復元していけば、われわれが失ったヴィジョンを取り戻す手がかりが得らるかもしれない。」(p10)
「彼らは、資本主義の基盤が、『所有と経営の分離』による一撃によって『産業』と『金融』に分裂し、不安定化したという認識で一致していた。そして恐慌とは、この資本主義の基盤の動揺を示す兆候にほかならない。」(p14)

著者は、現在の世界的な経済危機を克服するためには、どうしたらよいかということについては述べていない。そのかわり、金融資本主義の破綻した後、著者のいう「国民資本主義」のヴィジョンが世界に求められているという。
著者は、経済産業省に勤務し、イギリスのエディンバラ大学院に留学して博士号を取ったという異才である。

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