2009年10月13日火曜日

ポール・グルーグマン 危機突破の経済学

日本は「失われた10年」の教訓を活かせるか

2009.6 PHP研究所 大野和基訳

1953年生まれ 2008年ノーベル経済学賞受賞

著者によれば、いま世界で起きている経済危機の責任はアメリカにあるという世論は、いささかフェアではない。アメリカの住宅バブルがはじけたのは事実だが、ヨーロッパでもまた大規模なバブルと不良債権があった。今日の経済危機は、発端も影響もグローバルなものである。
日本は、経済危機の震源地ではないにもかかわれず、主要経済大国のなかで最悪の打撃を受けた。それば、日本の経済が輸出に頼ったものであったため、世界貿易の劇的な落ち込みの影響が特に大きかったためである。日本の経済が、まだ「失われた10年」から完全に回復していなかったのである。
著者は、日銀があまりにもはやくゼロ金利政策をやめてしまい、政府が財政赤字を減らそうとしたのが間違いだったという。ある程度のインフレが起きるまでそのままにしておくべきだったというのが著者の意見である。
インフレ・ターゲット論者で知られる著者は、日銀がインフレ目標をたとえば年4%とかに設定し公表すれば、景気は良い方向に向かうだろうと言う。具体的にどのようにインフレ・ターゲットを設定し実現するかは難問であるが、とにかく事態が良くなるだろうと言っている。
野口悠紀雄などの議論では、日銀があまりにも長く低金利の資金を世界に供給しつづけたのが経済危機を生んだとのことである。
グルーグマンの説では、逆に日銀はあまりにも早くゼロ金利から脱出しようとしたのが誤りであったという。
このように、日銀が金利をほんの少し動かすことにたいしてすら異なる意見があるが、どちらも日銀が悪いと言っているのである。中央銀行が金利を動かすことによって景気を調整できるというのが経済学の考え方であるが、金利を動かすことによってどのような効果があるのかは論者によって意見が異なる。これらの意見にはかなり大雑把なものもあり、単に日銀を悪玉にすればいいという考えに近いものもある。
もう少し詳細なデータをもとに分析しなければ、どの説が妥当なのか評価することはできないようである。

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