2010年1月15日金曜日

深谷賢治 数学者の視点

1996 株式会社岩波書店

1959年生まれ

著者は、「まえがき」で「数学や数学者についての雑談につきあうようなつもりで読んでいただきたい。」と書いている。
じつのところ、現代の数学は、非常に複雑で専門化しており、数学者の数も多い。
そのため、数学者の間ですら、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞を受賞した理論をわかる人は世界に何人いるかわからない。受賞者は、大勢の数学者の前で、自分の研究の核心を理解させることができないのである。
世の中には、自分がやっていることが何なのかとか、何に役に立つのかとか他人に説明することもできないのに、それでも評価される人がいるのである。そういう人たちが数学の進歩を支えているという面もある。
自然科学系の学部のなかで、コンピューター音痴の一番多いのは数学科であるという。「純粋」数学者は、知らず知らずのうちにコンピューターサイエンスなどを 「純粋」数学より低級なものだと考えていたのではないだろうかと著者は言う。
数学の中にも、クリーンな数学とダーティーな数学といった区別がある。
クリーンで高貴な数学といえば「数学の女王」といわれる整数論がある。
そしてダーティーで庶民の数学といえば・・・。
こういう話が続くと、もう素人にはお手上げであるが、現代の数学は、日常の直感とはかけ離れた抽象的で広大な世界を研究の対象とすることを可能にした。
そのため、ごく一部の人にしかわからないという大変高い代償を払わされることになった。
著者は大学の教師をやっているので、大学入試の問題を解いてみることがあるが、時間内に解けないこともある。それでも、著者によれば、どうせ答えがあるに決まっている問題を、一定時間内に解けるかどうかなど、しょせん「どうでもいい」と感じるそうである。あとからみれば、受験の数学とはそんなものなのだろう。
著者の夢は、何百年も解けない問題を提出して、長い間数学者に夢を見させつづけることである。

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