2009年9月23日水曜日

野口悠紀雄 金融危機の本質は何か

ファイナンス理論からのアプローチ
2009.2 東洋経済新報社


1940~
 
「2007年夏、アメリカで顕在化した金融危機は、金融工学やファイナンス理論を 『使ったから起きた』のではなく、『誤った使い方をしたから』、あるいは、『使わなかったから』起きたのである。ファイナンス理論は、適正に用いることによって、われわれの生活を豊かで安全なものにしてくれる。必要なのは、正しい使い方を見出すことである」
(序論より)

「やさしい数学」とか「数学早わかり」というような類の本は、かえって解りにくいことがある。難解な数学をかんたんな言葉で短く説明しようとするためである。
金融工学とかファイナンス理論というのも同じで、やさしい言葉で書いてある本を読んでも本当に理解することはむずかしいかもしれない。

ただ、結論を知るのは比較的容易である。
効率的な市場では、価格はランダムに動くので予測はできない、したがって株式市場で儲けることは不可能だという。
それならば、ウォーレン・バフェットはなぜ大金持ちになれたのかだろうか。
本書では、それも偶然の可能性が高いという解釈を紹介している。
多数の投資家のうちには、大損する人もいれば、大儲けする人も必ずいるのが確率の理論だからである。
これでは、味もそっけもないのだが、苦労して学んでも、ファイナンス理論を使って確実に儲けることはできないという。

歴史を振り返ると、大航海時代のマゼラン艦隊の目的は、地球は丸いことを発見することではなく、香辛料を持ち帰ることにあった。また、鉛を金に変えようという目的で始まった錬金術が物理や化学を生み出した。ファイナンス理論の出発点も、なんとか株価を予測して大儲けしたいということだったが、それは不可能なことがわかった。
しかし、著者は、他の学問と同じように、ファイナンス理論にも「真理の探究」という目的があると言っている。

今では、パソコンが広く使われるようになったため、ファイナンス理論の計算が簡単にできるようになり、実務の現場で使われている。またITの発展により世界規模での取引が瞬時にできるようになった。このように、ファイナンス理論とITの発展は金融の世界を大きく変え、世界的な金融大混乱の一因ともなったと言われている。
したがって、一般の人はファイナンス理論や金融工学の存在そのものを否定するのではなく、だいたいの様子だけでも知ることにより、誤解や過剰な期待をなくすことが必要なのである。

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