2013年5月4日土曜日

川本三郎 私の東京町歩き


1990 株式会社筑摩書房

東京の町は広い。
小さな商店街を歩くと、歩き終わったころに、また別の小さな商店街が続き、途切れることがない。
あたかも、体の中をめぐっている血管のようなものである。
東京の町は広いが、人の生活範囲は、けっこう狭い。
杉並区のような東京の西と、足立区、葛飾区、江戸川区のような東京の東は、地図で見ても非常に近い。総武線を利用すれば、時間的にも近い。
それにもかかわらず、杉並区の人は、足立区とか江戸川区には、あまり行かないようである。
実際に住んでみるとどんなところかは別であるが、たまに歩くぶんには、新しい発見がつぎつきにあり、知らない町を歩くのはおもしろい。
東京の東は、川の多い場所である。
隅田川と荒川、旧中川、中川、新中川、旧江戸川と新江戸川などがある。
江戸川区の旧江戸川には、妙見島という、ほんとうの島がある。
工場ばかりが立ち並んでいる島であるが、著者は大衆食堂を見つけ、ビールを飲んだ。
食堂のおやじさんの話では、むかしこの島に草野心平という詩人が住んでいたという。
足立区の千住には、「千住のおばけ煙突」と呼ばれていた煙突があった。
大正15年につくられ、昭和39年に取り壊された。
4本の煙突が、見る場所によって、1本にも2本にも、3本にも、あるいは4本にも見えた。
おばけ煙突の話題は下町育ちの人間に場所的一体感を与えていたので、映画や漫画にもよく出てくるそうである。
低い家並みの上に聳えるおばけ煙突は、澁澤龍彦によれば、不気味な何かのシンボルのようにも見えたという。

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