2011年11月17日木曜日

火坂雅志 謙信びいき

2009 PHP研究所

1956年生まれ

新潟県生まれの歴史小説家

著者は、歴史の表舞台に立つことはなくても、自分にしかできない仕事をしっかりと残した人物に興味をおぼえるという。
たとえば、越後の上杉謙信は、戦国乱世のなかで、独特の「義」の思想をかかげ、「弱きをたすけ、強きをくじく」という姿勢を生涯にわたって崩さなかった。彼のかかげた義や仁の心が直江兼続や真田幸村らに影響を与えたそうである。
歴史の表舞台にたった人物ばかりではなく、あまり知られていない多くの人が歴史をつくってきたことは事実である。
著者が好きなのは、「忍びの者」などの、社会からはみ出た者たちで、彼らは、人に知られることがなく、まさに神出鬼没、あらゆるところで活躍したとされている。
荒唐無稽な物語にいかにリアリティを与えることができるかは、伝奇小説家の腕の見せ所である。
知れば知るほど、人は「善」と「悪」のないまぜであり、善人といわれる者のなかに「悪」があり、悪人といわれる者のなかにも「善」を見つけることができる。歴史小説家の仕事には、そういうことを書くことも含まれるという。
それにしても、人に知られることのないはずの「忍者」のことがなぜわかるのか不思議である。
歴史書や過去の物語に加えて作家の想像力が作り上げるのであろうか。ただ、感心するしかない。

冬の越後は、雪に閉ざされ、暗鬱な鉛色の空と白く塗り込められた大地は、人の心に深い陰影を刻み込む。
しかし、雪は負の面ばかりではない。冬がおわり、春がおとずれると、山から清冽な水が流れだし、広大な水田を満々と潤す。
越後が日本でも有数の米の産地であり、銘酒のふるさとであるのは、すべて雪の恩恵である。
日本海の海の幸とともに、米の産地である越後は、日本が工業化する以前は、経済的にも先進地域であったという。
川端康成は、「国境の長いトンネルを越えると雪国であった」と書いた。
山ひとつ越えるだけで、別の世界があるのも、日本の気候風土のおもしろいところである。

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