2009年11月3日火曜日

尾崎弘之 投資銀行は本当に死んだのか

米国型資本主義敗北の真相

2009.2 日本経済新聞出版社


著者は1984年野村証券入社後、モルガンスタンレー証券、ゴールドマン・サックス投信などに勤務した。
本書は「投資銀行は本当に死んだのか」と題するが、著者は、そうは考えておらず、従来とは異なった形で役割をになっていくと考えている。
むしろ、米国型資本主義の「真の問題点」は、投資銀行にあるのではなく、実体経済に潜んでいるというのが著者の考えである。
なぜなら、実体経済がなければ金融産業は成立しないからである。
では、実体経済の抱える問題とは何か。それは、企業経営者が「無理な成長」を、ひたすら追い求め続けなければならないことである。
企業経営者は、決算のたびに、来期の高い業績予想を提示しつづけなければならない。
高い成長が、高い株価を実現し、これによって経営者の能力が評価されるという仕組みがアメリカに広がっている。
このような構造的な原因があるので、ひとつの金融危機が去れば、また次のバブルと金融危機とが、やってくるのである。
著者は今回の危機も、「グリーンスパン」と「ウォール街の投資銀行」だけを犯人とするような偏った意見には疑問を感じている。

「あとがき」では、つぎのように述べている。
「1990年の日本のバブル崩壊と2008年金融危機の共通点は、①株式市場や不動産市場が崩壊しても、それが即、実体経済に悪影響を与えるわけではないこと、②人々がバブルの崩壊に気がつくのは、ピークからある程度時間が経ってからであること、③バブルは金融機関だけでなく、実体経済の心理状態によって作られることの三点である。
2009年初頭は、暗い経済見通しのオンパレードである。まるで、将来への明るい希望など無いようにさえ思える。
しかし、振り返ってみると、ブラックマンデー以降、大きな危機の到来の度に人々は同じような心理状態に陥った。しかし、危機が去ると、危機の存在すらも忘れ去られてしまう。これが危機の本質なのであろう。」

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