2019年1月13日日曜日

安倍政権は本当に強いのか 御厨貴

2015 株式会社PHP研究所

安倍総理は、「戦後レジームからの脱却」をキャッチフレーズに、「強い日本を取り戻す」と言う。東京裁判も「A級戦犯」も認めず、靖国神社に参拝するのが悲願であった。
しかし、中国だけでなくアメリカの強い反発も招いたので、とりあえず引っ込めてしまった。
そのかわり、「集団的自衛権」と憲法の改正に意欲を燃やすことになった。
「集団的自衛権」は、現行憲法の解釈を変更することで可能となり、いよいよ、憲法の改正に向けてラストスパートをかけようとしている。
安倍総理のような考え方は、すこし前までの日本では、かならずしも一般的なものではなかった。
しかし、今は強い反対も起こっていない。
はたして、安倍政権は、本当に強いのであろうか。
そこで、安倍政権が強い理由をいくつか挙げてみる。
まず、自民党以外の野党が弱体である。
次に、自民党も弱くなっている。
自民党が弱くなったのは、かってのように、地元に金をばら撒くようなまねができなくなった。
小泉純一郎が、「自民党をぶっ潰す」と言って、有力な派閥を無力にした。
やはり、小泉純一郎が、反対派を「抵抗勢力」と見なし、選挙区に「刺客」を送り込み、当選できなくした。
この手法を安倍総理も踏襲したので、自民党内で安倍総理に逆らうものはいなくなってしまった。
以前なら引退していた麻生太郎のような長老も、閣内に取り込んだり役割を与えた。
こうして、自民党ではなく官邸主導で政治を動かすことができるようになった。
問題が起きると、菅官房長官が、優秀な官僚や学者を集めて、会議を開き、すばやく行動する。
菅官房長官が抜け目なく対応しているので、安倍総理は、外交や憲法の改正に専念できる。
二度目の安倍政権の特徴として、「アベノミクス」と称する経済政策が挙げられる。
「物価目標2パーセント」と言うが、金融政策では日銀は政府から独立していることになっているので、たとえうまくいかなくても、政府は責任を負わないし、いくらでも言い訳できる。
今の日本では財政制約が厳しいので、誰が総理大臣になっても、目新しい政策を打ち出すことはできない。
国民も、たびかさなる短期政権に、うんざりしており、安倍政権なら今のところ無難なのではと思っている。
以上が、「安倍一強」の理由であるが、安倍総理が国民をどこに導こうとしているのかは、はっきりしない。