2019年11月3日日曜日

平成経済衰退の本質 金子勝

2019 岩波新書

「失われた30年」は、成長から衰退への道のりである。
初めの10年は、バブル経済が崩壊し、その後始末に費やされた。
次の10年は、小泉内閣による「構造改革と規制緩和」によって、貧富の格差が拡大した。
最後の10年は、民主党政権による素人政治のあと、安倍第2次内閣が誕生した。
安倍総理は、「デフレに苦しんできた」と言って、デフレからの脱却を目指し、「アベノミクス」と称する経済政策を採用した。2%の物価上昇を目指すと言っていたが、達成される見込みはない。
何が悪かったのかということになると、「小泉や安倍がバカだ、無能だ」と言うのは容易である。しかし、小泉や安倍のような人は、「フツーの人」ではない。
「フツーの人」は、総理大臣になりたいなどと考えないが、彼らは、「総理大臣になりたい」と本気で考える。若いうちから、「先生、先生」と、もてはやされる。
彼らの仕事は、細かいことや複雑なことを考えることではない。
なるべく多くの人と会って話を聞き、顔を売るのが仕事である。
たとえば、経済政策などは誰か他の人物に考えさせるしかない。
そこで、登場するのが、小泉内閣で言えば、竹中平蔵である。
「アベノミクス」では、イェール大学の浜田宏一、ノーベル経済学者のポール・グルーグマン、経済学者で後に日銀副総裁になった岩田規久男、それに、日銀総裁になった黒田東彦などである。
彼らは、「リフレ派」と呼ばれていて、日銀総裁が「2%の物価上昇を目指す」と言っただけで、何もかもうまくいくと主張していた。
こういう安易な考え方に乗ったのが、安倍晋三である。
「アベノミクス」がうまくいっていると考える人は多いわけではないが、安倍首相に「じゃあ、どうすればいいのか?」と言われて答えられる人もいない。
物価がそれほど上がっていないのも、かえって幸いである。
もし、毎年2%も物価が上がったら、安倍政権もこうまで長くは続かなかっただろう。
それにしても、30年は非常に長い。
その間に、ユニクロ、楽天などの経営者は「フツーの人」から大富豪に変身した。
渋谷や六本木の超高層ビルは、スマートフォンのゲームやインターネット広告を取り扱うIT企業に占められるようになった。
衰退しているといっても、うまく立ち回る者もいるわけである。