2008.11 株式会社幻冬社
1953年生まれ
サブプライム問題とか金融危機とかが騒がれている時期には、多くの噂や風評が飛び乱れ、一般の人々の心理を掻き乱し、普段なら考えてもみないような妄説が社会に蔓延しがちであるという。
危機的な時期こそ、目の前の出来事にとらわれることなく、冷静に個々の事実を正確に把握しなければならないのだが、かえってそれができなくなる。さまざまな説を唱えている人たち自身が、自分たちの誤った説のとりこになってしまうことも多い。それどころか、その説が社会全体におよんでしまうと、その説が一人歩きすることになってしまう。
こうした現象は「自己実現的予言」と呼ばれていて、多くの社会現象に見られるという。
現代のような情報社会では、情報がまんべんなく行き渡ることによって間違いが矯正されるのではないかというと、その逆で、情報の過剰集中によって、かえって特定情報の自己増殖現象が起こりやすくなる。インターネットの検索で上位に並んでいるからといって、それが正しいという保証はない。
そういうわけで、現在世間に流布している経済情報についても、まず疑ってかかることから始めなくてはならない。
著者が言う「デタラメ」と著者の反論は、たとえば、次のようである。
「アメリカの金融資本主義は崩壊する」という説があるが、アメリカはこれまで何度も「崩壊した」と言われつづけてきた。2001年ITバブルが崩壊したときもアメリカ資本主義が終わったと言われていた。
「ムダな支出を減らせば増税は必要ない」という説にたいしては、日本は国債残高がきわめて大きいので、これ以上財政赤字が増えないようにするだけでも困難な状態であるという。
「公務員が多いせいで日本経済はだめになった」という説にたいしては、日本の公務員の数は国際比較すると、けっして多くないらしい。
「ドルはほどなく基軸通貨から転落する」という説があるが、著者は2050年ごろまではドルの基軸通貨からの転落は完了しないという。
「あとがき」では、著者は「日本の公務員は少なすぎるために不祥事が生まれている可能性すらあるのに、その解決策が公務員の削減にねじ曲げられてしまっている。しかし、公務員削減のやりすぎで公的サービスの低下が生じ、さらに不祥事が増えたら損をするのは私たち国民なのである。同じような『常識』が経済問題には実に多く存在するのだ。」と述べている。
こうなると、著者の言うことも疑ってかからねばならないことになるが、とかく社会や経済のことは、渦中にいるとなかなかわかりにくいものである。
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