2009年10月3日土曜日

榊原英資 日本は没落する

2008 朝日新聞社

1942~
 
今、日本社会のさまざまな局面でその屋台骨が次第に、しかも加速度的に崩れている兆候が見られる。高齢化や財政の破綻という問題はすでに指摘されている。
問題は、そればかりではなく、日本経済の牽引役であった民間企業の競争力も弱くなっている。教育の質は劣化し、欧米だけでなく韓国、中国、インドにも後れをとっている。今後、10年から15年で日本全体が没落するという強い危機感を持ち、官民双方で抜本的改革を実行していかなければならない。

「『公』(パブリック)の崩壊」と題する章で著者は次のように書いている。

「省庁の大臣・副大臣は政治家で、官僚はその部下にあたる存在です。その政治家たちが官僚や省庁を公然と非難するというのは、会社でいえば社長と副社長が、『うちの社員はだめだ』『うちの会社はなっていない』と外に向かって発言するのと同じこと。
これでは組織が機能しなくなるのは当然です。」(p151)

「そもそも天下り批判は、官庁の高級官僚がその監督下にある公社公団に移籍していることに対して始まりました。それが今、必要な官民の交流まで妨げています。
事態がこのまま進めば優秀な人はみな官庁をやめてしまい、残るのは民間企業の実態も市場の現実も何もわからない、能力もやる気も公的な役割を担っているという意識も低い人たちの集団になるでしょう。
今や問題は、官が強すぎることではなく、官が弱く、そして『公を担う』という志もそのために必要な能力もなくなりかけているということです。」(p155)

この点、アメリカでは「リボルビング・ドア」と言われるくらい官民の人材交流がさかんである。財務長官であったヘンリー・ポールソンやロバート・ルービンがゴールドマン・サックスの最高経営責任者であったのはよく知られている。
著者が言うように一律に官民の人材交流を禁止するのは弊害が大きい。

官僚と一口に言っても、公務員は何百万人もおり、実態は様々である。
2007年の国会では、社会保険庁の年金記録の不備が大問題となり、社会保険庁の職員のモラルの低さが国会やマスコミによる攻撃の的となった。しかし、社会保険庁の職員すべてが特にモラルや能力が低いとは考えられない。これには、やはり、年金制度の複雑さや、官僚組織の制度的な側面という原因をよく考えなければならない。

言いかえれば、日本でいままでやってきたシステムがあちこちで疲弊しているのである。

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