2010 日本経済新聞出版社
日本はIT先進国である。
携帯電話は、ほとんどどこにいてもつながり、銀行の手続きは、たいてい機械ででき、電車は時刻表どおりに動き、「スイカ」を使えば自由に乗り降りできる。私たちが、あたりまえだと思っていることも、日本のIT技術がすぐれているためである。
しかし、問題がないわけではない。
これらのITやソフトは、ほどんど個別に企業内で開発され、外に出ることはない。
ソフトウエア技術者によっていちじるしい能力の差があるにもかかわらず、それが企業内で評価されることもない。
このように、日本のIT産業は、個別のシステム開発に力を注いできたので、みんなで使う基礎的なソフトであるOSなどは、アメリカ製やヨーロッパ製を使わざるを得なくなっている。
日本独自の問題と思われるのは、日本人の要求水準の高さである。
およそ、人間が作ったもので、完璧とか完全というものはあり得ない。
ソフトウエアも同じである。ちなみに、マイクロソフトのウインドウズは、しょっちゅうアップデートを繰り返している。
たとえ、ソフトウエアが完全だったとしても、メンテナンスやオペレーションは、間違いを犯す人間がしなければならない。
それにもかかわらず、日本では、システムに完全性を求める傾向が強く、銀行のシステムが数時間止まった程度で大騒ぎになる。
完璧を求めるのではなく、トラブルや事故があるのは当然のこととして、その時の対策を考えておくほうが合理的である。
はじめから壮大な構想のもとに完璧なものを作ろうとすると、途中で挫折したり、たとえできたとしても、複雑すぎて使い勝手が悪いものになってしまうことが多い。
政府が主導する大規模システム開発は、しばしば、そのようなことになってしまうようである。
ベンチャー企業などが、小さなシステムから始めて、ユーザーの要求を取り入れたり、参加させたりしながら、大きく業務を拡大していくことが多いが、そのほうがうまいやり方である。
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