1872~1896
樋口一葉は、日本人に最も愛されている作家のひとりで、その肖像は5千円札に取り入れられている。
24歳6か月の生涯のうち、作家生活は、わずか14カ月であった。
亡くなる2年ほど前に、吉原遊郭近くの下谷龍泉寺町で荒物や駄菓子などを売る雑貨店を営み、そのとき見聞きしたことが、思春期の少年少女を描いた名作「たけくらべ」を生み出した。
樋口一葉の才能は、子供たちの生活を、いきいきと描き出し、誰にでもある子供時代へのなつかしさと、いとおしさとに訴えかけている。
「龍華寺の真如が我が宗の修行の庭に立出る風説をも美登利は絶えて聞かざりき、有し意地をば其まゝに封じ込めて、此処しばらくの怪しの現象に我れを我れとも思われず、唯何事も恥ずかしうのみ有りけるに、或る霜の朝水仙の作り花を格子門の外よりさし入れ置きし者の有けり。誰れの仕業と知るよし無けれど、美登利は何ゆゑとなく懐かしき思ひにて違い棚の一輪ざしに入れて淋しく清き姿をめでけるが、聞くともなしに伝え聞く其明けの日は真如が何がしの学林に袖の色かへぬべき当日なりしとぞ」
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