2011年5月10日火曜日

田中均 プロフェッショナルの交渉力

2009 株式会社講談社

1947年生まれ

著者は、外交官として、アメリカや北朝鮮を相手に厳しい交渉にあたってきた。
交渉力とは、たんなる交渉術ではなく、交渉によって、自分にも相手にも、利益を生み出すには、どうしたらいいかという基本が必要である。双方にとって利益にならないのであれば、交渉は成立しない。
日本とアメリカとの交渉、日本と北朝鮮との交渉においても同じであり、相手が何を求めているのか知らなければならない。
一方的に沖縄の基地を返せと要求したり、拉致被害者を返せと要求しても交渉は進展しない。
個別の問題は、おおきな枠組みに乗せることによって、同時に解決することができる。

交渉には、裏付けとなる権力を必要とする、決定権を持っている人物が関わらなければ、交渉はまとまらない。
国の場合は、総理大臣が最終的な権力を持っているので、最後には、総理大臣の決断が交渉がうまくいくかどうかを決める。
そのため、黒子である外交官という官僚は、確信ができあがるまで十分に関係者に報告し、説明しなければならない。

著者は、日本が普通の国になるためには、将来、憲法を改正して、軍備をもつことをはっきりと明示すべきであると考えている。外交という場において、過去に、湾岸戦争で多額の資金を出させられたあげく、ろくに評価されなかったという、にがい経験をもっているからである。憲法を改正したからといって、日本が戦争に巻き込まれるというわけではなく、普通の国はどこでも、軍隊を持つことを認めていると著者は言う。日本は、憲法を改正しないまま、憲法解釈によって、軍備を拡大し、自衛隊を事実上の軍隊にしてきた。しかし、外交交渉という場においては、自衛隊を正々堂々と軍隊として認めなければならないということなのであろう。

北朝鮮との交渉では、小泉首相の訪朝によって拉致被害者のうち、何人かは帰国することができた。
しかし、著者は、評価されたのではなく、逆に、各方面から熾烈なバッシングを受けた。
北朝鮮と合意した日朝平壌宣言に北朝鮮に迎合する部分があったとか、ウソの死亡情報が発表されたためであろう。
それでも、著者は、職業的満足感を感じているという。

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