2013年2月16日土曜日
米原万里 旅行者の朝食
2002 株式会社文芸春秋
同時通訳者として知られる著者のエッセイ集。
言葉というのは、その言葉を使っている人たちには容易にわかるが、外国人にはわからないというところがある。
旧ソビエトでは、「旅行者の朝食」と言うと、皆が、いかにも「まずい」という表情をする。事情を知らない外国人にはわからないが、「旅行者の朝食」とは、当時の国営企業が売っていた缶詰の名称なのであった。著者が実際に食べてみたところ、やはりほとんどは非常にまずかったそうである。
桃太郎の話を知らない日本人はいない。
著者は、幼いころ、なぜ、犬、サル、キジがきび団子を命に代えても欲しがったのか疑問に思っていた。
大きくなってから食べてみたが、ちっともうまいものではなかった。
あるとき、アメリカの農場で豚がものすごい勢いで食べている餌があったので、なんだか聞いてみたところ、キビだということであった。そこで、著者は、犬、サル、キジにとっては、キビ団子がとても魅力的だったのかも知れないと思ったのである。
吸血鬼ドラキュラという話がある。
ヨーロッパでは、鹿などの動物の肉が肉屋で売られており、店先に鹿の死骸が置いてあっても人々は平気である。
それどころか、今日は新鮮な肉がはいりましたと知らせる合図になっている。
また、動物の血をバケツに入れて嬉しそうに買っていく人がいる。
家で軽く煮てゼリー状にしてから食べるのが人々の楽しみになっている。
ドラキュラは、ルーマニアでは、モンゴルの攻撃に最後まで抵抗した英雄である。
動物の血を食べるのは、ヨーロッパの伝統であり、サラミソーセージの色も、血の色から来るものであるという。
私は、親の仕事の関係で子供のころアフリカで暮らしていた人の話を聞いたことがある。
あるとき、海岸へ行ったところ、ウニがいっぱいころがっていたので、親子で夢中になって、ウニの殻を割って中身を食べたそうである。そこへ現地の人間が来て、いかにも不思議そうに親子を眺めたという。そのとき、その人は、自分が日本人であることを強烈に意識したという。
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