2009 株式会社新潮社
1933年生まれ
「ときどき、思いがけない質問を受けることがある。
つい先日も、ある若い女性から、『先生の親友はどなたですか?』ときかれた。
本人としてはあどけない、ごく自然の質問だったのだろうが、わたしは一瞬戸惑った。
正直いって、そんなことをきかれるとは思ってもいなかった。いや、それ以上に戸惑ったのは、彼女がいう、親友の顔を思い出せなかったからである。
そこで、『いないなぁ・・・』と答えると、彼女はあっさりうなずいて、別の話に移ったが、わたしはその質問の余韻から抜け出せなかった。」(p88)
歳を取って「親友」がいるのは、ごく特殊なケースらしい。
著者は、男の場合、地位や立場が違ってくるにつれて、親しみがうすれ、離れ離れになっていくと言う。
歳をとると、新しい友人はできることがあるが、それは「親友」とは少し違うようである。
若いうちは、比較的、友達をつくるのは容易である。ところが、次第に、立場が違ってきて、共通のものがなくなっていく。
とくに、男のばあい、「親友」のあいだに、「女」がはいってくると、たちまち、お互い「敵」になってしまうことがある。
それより、なにげなく言われた心ない一言だけで、人を傷つけるのには十分である。
ようするに、歳を取ると、いかに「親友」になるのが難しいか、そのいっぽう、失うのは一瞬のことであるかがわかる。
そのため、男は、はじめから「親友なんか、いないよ」と言って、拗ねてみせるのではないだろうか。
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