2011 日本経済新聞出版社
1963年生まれ
2010年末現在、ヨーロッパにはおよそ50の国があり、そのうちの27の国が欧州連合(EU)に加盟しており、さらにそのうちの17の国が域内共通通貨「ユーロ」を採用している。
「ユーロ・リスク」とは、「ユーロ」を採用している国々の経済安定にかかわるリスクという意味と、共通通貨「ユーロ」それ自体の信認についてのリスクという二つの意味がある。
最近世界を騒がせている「欧州財政危機」とは、おもに前者のような域内経済問題を指しているが、「ユーロ」それ自体の為替相場も2002年以来おおきく変動している。
ユーロ圏に参加する諸国を三つのグループに分けると理解しやすい。
ドイツやフランスなどの低リスクのグループ、イタリアやベルギーのような中リスクのグループ、ギリシアやポルトガルのような高リスクのグループである。
ギリシアが債務不履行に陥るのではないかという懸念が最近の欧州財政危機の発端である。
仮にギリシアが債務不履行になると、ギリシア国債を保有している銀行は損失をこうむり、金融危機を引き起こすおそれがある。
そうならないためには、ドイツなどの経済的に強い国が弱い国を財政で支援するか、弱い国に財政規律の強化をもとめなけらばならない。
ここで、ドイツがギリシアを助けようとすれば、ドイツ国民が反発し、ギリシアに財政規律の強化をもとめようとすれば、ギリシア国民に大きな負担がかかる。
国民の声を無視するわけにはいかないので、話し合いは容易ではない。
そうしているうちにも国債の格付けは下げられ、市場は混乱する。
最悪のケースでは、「ユーロ」が分裂するのではないかという不安も消えていない。
ところで、ドイツは日本以上の輸出大国である。ドイツが輸出大国でいられるのも、「ユーロ」あってのことである。
もし、ドイツが以前のようにマルクを使っていたとすれば、輸出が増えるとマルク高になり、日本が円高に苦しむように、ドイツもそうは輸出をのばすことはできないはずである。
「ユーロ」を使っているので、域内はもとより、域外においても有利な条件で輸出ができるのである。
いっぽう、ギリシアのような国が「ユーロ」から離脱すれば、ギリシアの通貨価値は暴落して、債務が返済できないだけでなく、国民は急激なインフレに苦しまなければならない。
したがって、ドイツにとってもギリシアにとっても「ユーロ」を維持することには利益がある。
ただ、話し合いによる合意には、関係する国が多いので、時間がかかる。
「ユーロ」がドルに匹敵するような国際通貨となるには、ユーロ圏の諸国が克服しなければならない課題はきわめて多い。
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