2011年11月22日火曜日

森見登美彦 太陽の塔

2003 株式会社新潮社

1979年生まれ

この小説の主人公は、恋愛に不器用な理系大学院生である。
異性にあこがれるが、近づくことはできず、現実の女性とつきあうこともできない若者の話は、夏目漱石の「三四郎」にさかのぼる。
昔は「バンカラ」とか「硬派」などと言ったが、今は「おたく」とか「草食系」とか言うのだろうか。
この本で「法界悋気」という言葉を知った。自分に関係のない他人の恋をねたむことだそうである。
それも「バンカラ」学生の特徴で、男同士で、足の引っ張りあいをしている面がある。

「太陽の塔」というのは、大阪万博のとき、岡本太郎がつくったシンボルタワーである。
しかし、主人公が幼いころには、そんなことは知らず、なんだかわからないが、とてつもなくでかく、不気味なものがそこにあるという印象が深くなっている。主人公は、万博公園を愛し、太陽の塔を畏怖している。
主人公に彼女ができて、太陽の塔を見せたところ、やはり、驚いて、えらく気に入ったようである。

小説のすじから離れるが、太陽の塔は、取り壊される予定になっていたが、署名運動などがあって、保存されることになったという。
大阪万博は、1970年に開催された。すでに40年も前のことで、作家の生まれる以前のことである。メイン・テーマは、「人類の進歩と調和」であった。
そのころは、今のようにパソコンやインターネットが発達して世界中の人と瞬時につながることができるとは夢にも考えられなかった。
今では、当時と比べて、非常に便利な社会になったのだが、世界のなかで日本の優位性はなくなり、雇用も減ってしまった。
大学院生が、コンビニや宅配寿司のアルバイトで食いつなぐというのも、あまり考えられなかったことだったような気がする。

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